【行政委託/開催報告】2022.8.26福島暮らしへのスロースタートセミナー~新幹線でわずか1時間半!福島-東京 “転職しない移住”のリアル~
2022年8月、東京都千代田区のふるさと回帰支援センターにおいて、ひとつの移住セミナーが開催されました。テーマは、福島―東京間の転職しない移住。
地方暮らしに興味はあっても、転職がネックになる人は少なくないでしょう。今の仕事を続けたいという気持ち、あるいは、地方での転職は給与水準が下がるかもしれないという不安。
そこで、今回のセミナーでは転職しない福島暮らしの経験を持つお二人にお話しをうかがいました。鎌田千翔さんは、2020年から福島県にUターン。弁護士として東京の企業での仕事を継続しながら在宅勤務と東京での勤務を両立されています。芦沢透子さんは、東京都出身でご主人の転勤を機に福島暮らしを開始。週の前半を東京勤務、後半を福島での在宅勤務でお仕事を続けています。
お二人はそれぞれ仕事の環境や、福島暮らしの理由は異なりますが、在宅勤務を活用し、転職することなく福島での生活を満喫。
その生活ぶりや、仕事・通勤の実情についてお話いただきました。
(聞き手:一般社団法人tenten代表 藤本菜月)
転職しない移住を決めたのは・・・
福島の風景に癒されUターンを決意
鎌田千翔さんは、福島県出身で大学進学時に東京に転入。弁護士として法律事務所や外資系企業に勤務し、2019年から株式会社リクルートに勤務しています。コロナ禍前からリモートワークを活用しており、2020年に福島市にUターンを決めます。現在は月に1度の東京での出社と、福島市での在宅勤務を組み併せています。
(鎌田)10数年ぶりに住む福島は知り合いもいないため新規転入同然でしたが、それでもUターンを決めたのは故郷・福島の風景。コロナ禍の都心の住みづらさを感じていたこともありますが、福島の風景に癒しを感じたのです。加えて、震災を経験した福島のために何かできることをと考えこの機会をチャンスにしようと思いました。
福島生活のメリットは、東京に比べて圧倒的に家賃が安いこと。駐車場代込みでも東京の2分の1ほどに抑えられます。仕事用に一部屋確保できるので、東京で在宅勤務するよりも仕事に集中しやすい環境です。このほかにも、土湯温泉のコワーキングスペースを利用したり、四季の里(福島市)やふくしまスカイパーク(福島市)などの屋外施設やwifiを備えたカフェなど、気分転換を図りながら仕事を進めています。
休日は、畑や田んぼ沿いの道でジョギングしたり、安達太良山や裏磐梯、海などにドライブしたり、山登りに出かけたり、温泉に浸かったりと充実。都心にいると海も山も遠いのですが、福島では気軽に行けるのも魅力のひとつです。
わたしはUターンとはいえ、15年以上東京にいたため、新規移住者のようなもの。このため、ふるさと回帰センターの相談会に参加し、tentenを紹介してもらいました。移住後にtentenのイベントに参加したり、まちなかリノベ塾(https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/476456.pdf)や副業人材マッチング(https://pro-fukushima.com/)などに積極的に参加してきました。こういったことから、地域とのつながりや受講者同士のつながりが生まれました。
今後は、福島の原風景を残したい、という気持ちがあります。まずは拠点づくりを考え、田んぼを見ながら仕事ができるような物件を探しています。
夫の転勤で福島へ、離職せず働き続けるために会社と交渉
芦沢透子さんは、東京都出身。IT業界、観光業界、化粧品メーカーで広報のお仕事をしてきました。ずっと東京で暮らしてきた芦沢さんですが、2021年にご主人の転勤で福島に転入。もともと、東京以外の自然が多い場所に住みたいと思っていたこともあり、転勤に帯同することを決めたそうです。
(芦沢)夫に帯同することを決めたとはいえ、転勤は1~2年間の期間限定。これを理由に仕事を辞めるつもりはありませんでした。東京と福島は新幹線を使えば1時間半で通えるし、リモートワークを併用すれば十分に仕事を続けられると考えたからです。
とはいえ、前例があるわけではないので会社との交渉は必要。結果、月~水は東京で仕事し、木・金は福島で在宅勤務、土・日は休日というスタイルになりました。
もともと山や自然が好きだということもあり、家の前から山が見えるのは魅力です。
実は、転勤が決まった当初、会社に相談したところ「勤務時間が減る分、給料を下げる」、「雇用形態を変える」という提案がありました。それで法律を勉強して、折り合いの付くポイントを探しました。子育て中の女性が5時に帰って6時に保育園のお迎えに行くのが可能であれば、5時の新幹線に乗ることも同じだと考えました。子どもも夫も家族という点は同じ。業務量を減らすことなく働ければ、前例がない働き方でも認められるのではと思います。
今後、また夫に転勤があれば、同じ働き方をしたいです。会社さえリモートワークを認めてくれれば夢は広がります。
金銭的にも体力的にも負担は感じていない
(藤本)東京で仕事を続けながら福島に住むというのは羨ましいパターンです。移住を考えた時に、福島で新たに仕事を探すということがネックになる人も多いと思います。とはいえ、金銭的に負担が多くなったということはありませんか。
(芦沢)交通費は会社の就業規則で月額5万円までのため、月に2万円程度は自己負担となります。一方で、私の場合は、実家が東京にあるため、東京滞在中はホテル代がかからないのも大きかったかもしれません。
(鎌田)私の場合、交通費で5000円程度しか会社から支給されないため、新幹線代の自己負担分に加え、東京滞在中はホテル代もかかります。しかし、それでも東京での家賃を考えると金銭的な負担は少なくなっています。また、福島での生活は野菜や果物をご近所の方にいただいたり、東京に比べてお店が少ないこともあってお金を使う機会が減り、お金が貯まる気がします。
(藤本)新幹線通勤は体力的に大変ではないですか?
(芹沢)新幹線は指定席を取れば必ず座れるので大変さはあまり感じません。また、オフィス車両(追加料金なしで、仕事、通話、WEB会議などが可能な車両)を使えば、移動中にオンラインミーティングもできます。
(鎌田)新幹線移動は大変ではないですね。むしろ、在来線の普通の通勤電車の方が大変です。福島-東京間の1時間半でできる仕事を集中してできています。
(藤本)東京での生活と比べて不満に感じることはありますか?
(鎌田)あまり感じたことはありません。近くに大型のスーパーがあるし、福島市のまちなかには新しいおしゃれな店もできるし。ただ、本屋さんが少ないかなと感じますが、ネット通販で買うのであまり不都合ありません。美術館が少ないなとは感じます。
(芦沢)私も感じたことはありません。自宅近くの図書館が小さいなと感じた程度です。むしろ、東京にいた頃は、有機野菜など食材にこだわるととても高額になっていたのですが、福島では普通の野菜に比べて10%ほど高い程度で購入できます。
東京で磨いた知識・専門性を福島にバックしたい
(藤本)福島-東京で仕事をしてみて実際どうですか?
(鎌田)東京での仕事を辞めず、福島に住むことができるのは1時間半で通勤できるという環境があってこそ。自分の知識や専門性は東京で磨きつつ、地元・福島にその知識や専門性をフィードバックしていきたいと思っています。
(芦沢)夫の転勤で、東京での仕事ができなくなるかもしれないと思い、現実と向き合いました。会社としては前例のない在宅勤務との組み合わせという働き方ですが、それが認められたことで会社に対する愛着が深くなりました。自分のキャリアについて考える、いいきっかけになったと思います。
もともと、東京ではないところに住みたいという思いがあって、実際にできることが分かったので今後の目標ができました。この春に夫の東京転勤が決まって福島を離れたのですが、この先、福島県にまた住みたいという気持ちがあるので、移住の選択肢の一つとして考えていきたいと思っています。
(藤本)福島に住みながら東京で仕事をするという選択をしたお二人にお話しをお聞きしました。こういう生活もいいなと思える事例ではないでしょうか。ありがとうございました。
移住の目的は人それぞれ
福島県はOwn Way(オウン・ウェイ)を応援(オウエン)する
さいごに、「福が満開、福しま暮らし情報センター」移住相談員・新妻さんと、福島県地域振興課の中根さんから、それぞれの移住支援について紹介がありました。
(新妻)「福が満開、福しま暮らし情報センター」は、NPOふるさと回帰支援センターに、福島県の移住相談窓口として設置されており、移住相談員3名、就職相談員2名の5名体制で常駐しています。また5名全員が福島県出身ですので、ぜひ気軽に相談にお越しください。
具体的には、移住先の地域を絞っている方であれば地域に関する支援、地域が決まっていない方は、やりたいことに沿った地域の紹介や、地域のコーディネーターや移住相談を受けている方、あとはtentenなど移住後にサポートしていただけるところを紹介しています。
就職に関しては、転職しなければならない方にはキャリアコンサルタントの資格を持つ就職相談員が、漠然としたお仕事の悩みから具体的なキャリア相談まで受けています。ハローワークも常駐しているので、求人検索のほか、ツールの使い方や仕事の探し方も紹介させていただきます。
(中根)福島県では「ふくしまは、あなたのOwn Way(オウン・ウェイ)を応援(オウエン)します」というキャッチフレーズで移住支援をしています。移住って、住む場所を物理的に変えるだけではなく、やりたいことや憧れの暮らしを実現させるためのものだと思います。実現させたいことは人それぞれ。福島県は人それぞれの暮らしや、やりたいことをサポートしていきます。不安に思うことがあればぜひご相談ください。
福島県の移住サポート制度をいくつかご紹介します。
まずは「ふくしま「テレワーク×くらし」体験支援補助金」(https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/510725.pdf)。
これは、テレワークの体験支援補助金で、宿泊費、交通費、施設利用料、レンタカー代が対象です。実際の事例として、地方に住んでテレワークをしたかったという方が、この制度を使えば会社に負担をかけずにできるということで実際に2か月間テレワークをしました。結果、この間に地域に仲のいい人ができて、移住したというケースがあります。
「ふくしま移住希望者支援 交通費補助金」(https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/503837.pdf)
これは、移住前の下見などでの交通費補助制度です。福島での生活環境を見たい、就職のための企業訪問、住まい探しなどの交通費を補助します。
「ふくしまwith youお試し移住村」(https://fukushima-withyou.com/)
県内3エリア(いわき市入旅人エリア、白河市野出島エリア、磐梯町磐梯エリア)で移住体験をしていただくというものです。移住体験を通じて、暮らしのミスマッチが生じないように、ご自身で田舎の距離感を感じていただくことができます。移住先を決めていなくとも、農業・林業体験をしたいとか、遊びの余暇を過ごしたいとか、山登りをしたいとか、目的に沿って場所を選んで、短期・長期で滞在できるプログラムです。ぜひ福島をご体験ください。
「福島県移住ポータルサイト ふくしまぐらし」(https://www.fukushima-iju.jp/)。
こちらでは、イベント情報や住まい、仕事の情報を発信しています。
このほか、ふくしまぐらしLINE公式アカウント、ふくしまファンクラブなどがありますので、ぜひご登録ください。
まとめ
地方に住みたいな、とずっとむかし都会で働いていた頃に思ったことがありました。
しかし、調べれば調べるほどそれが非現実的に思えました。リモートワークなどほとんどなかったその当時、仕事はやめざるを得なかったし、地方で一人暮らしを維持する収入が得られそうになかったから。リモートワークという働き方、そしてそれを会社に認めさせるだけの仕事力、東京から1時間半という利便性この3つが揃うことで地方移住がぐっと現実味を帯びることが分かりました。
わたしもまた、福島の魅力は、東京への近さは当然その理由のひとつに入りますが、それ以上に語りつくせぬものがあると思っています。移住体験やテレワーク体験など、さまざまな制度・機会を通じて福島の魅力が多くの人に伝わりますように。(福島の暮らしの情報を発信するサイト「tenten fukushima」ライター:久保田裕美)